武原多恵子さんの証人尋問

 職場の中で争議を支援する者、ラジオ体操を拒否する者が孤立させられ、組合役員選挙に会社側候補者の運動員として職場の人がかり出される様子が語られている。

武原さんは私を支援してくれている曽村征子さんの友人だったため、はるばる金沢から出てきて証言してくれた。


原本番号平成三年 民第 六六号の一

速  記  録

平成 三年 七 月一一
第  五 回  口 頭 弁 論

事件番号

平成二年(ネ)第一四四五号

証  人

氏    名
武 原  多 恵 子



控訴代理人 (中川)
   証人と原告との関係を伺いますが、原告を知っていますか。


        はい、知っています。

    どういう関係で知っていますか。


       沖電気に勤務していたころ、知っています


    個人的な交際はありますか。


      田中さんが部長をしていたギターマンドリンクラブに数回行った程度
       で、特に親しい交際はありませんでした。


証人の入社は一九七六年四月で、退社されたのが一九八〇年一二月というこ
とでよろしいですか。

    はい。


証人の沖電気における配属部署は、基板製造課のサプラインというところに
いたということでよろしいですか。

    はい

係長一名に所属員が八名、そういう職場ですね


    はい。
沖電気で整理解雇が発表されたのは一九七八年一一月なんですが、そのころ
の証人の職場はどこでしたか。


   同じく基板製造課です。


指名解雇があって、後の職場の変化について、証人が一番に感じたところを
言ってください。

  指名解雇の前と後では、職場の雰囲気が随分変わりました。
                                     
どういうふうに変わりましたか。


  会社に対してものを言う人がいなくなったこと、それから、残ってい
  る人も、職場などで村八分のような状況になっていましたので、会社
  への批判とか、そういうことが自由に言えないような、そういう雰囲
   気になりました。


なぜそうなったのか、分かりますか。


  会社に対して抵抗する姿勢を示すことは、個人個人にとって不利な状
  況になるということを、みんなそれぞれ知っていたからだと思います。
会社からの働きかけというのはあったんでしょうか


    ありました。


あなた自身は、会社からの働きかけを経験していますか。


    はい。

どんな経験ですか。


   友人との交際をやめるように、上司から言われたことがあります。


友人というのはだれですか。

   大津マチ子さんという人です。


交際をやめるように言われたということですが、それはだれから言われまし
たか。

   係長の田中さんから言われました。

どんな機会に言われたんですか。

   勤務時間中に呼ばれまして、応接室で二時間ぐらい話をされました。
そのとき係長がまず言った言葉は、どういう言葉でしたか。

  まず、大津さんとの付き合いはどういうものなのかということを聞か
  れました。

その大津さんという方はどんな方ですか。

   大津さんの夫が争議を支援している人でした。

大津さん自身はどうでしたか。

   大津さん自身は、していませんでした。

あなたとの関係はどうですか。

   ごく普通の友人関係です。寮が同じでしたので、あと、職場が同じと
   いうことで親しく付き合っていました。

田中係長がいろいろ大津マチ子さんとの交際をせんさくしたそうですが、あ
なたはどのように答えましたか。

   ごく普通の友人関係ですから、別にやましいことはありませんので。

そう答えたんですね。

    はい。

それに対して係長はどう言いましたか。

   彼女の夫が争議を支援している人だということ、会社にとってよくな

   い人たちであるから、付き合うのはやめたほうがいいというふうに言
   われました。

付き合いというのは、友だちとしての付き合いということですね。
    そうです。

会社にとってよくないという言い方をしたんですか。

    そうです。
どういうふうなことで会社にとってよくないと言っていましたか。

   例えば、門前でビラを配ったりとか、そういうことです。

今のビラを配っているというのは、大津さんの夫がということですね。

    そうです。

大津さん自身はしていないんですね。

    していませんでした。

二時間もこういう話を勤務時間中にされたということですが、二時間という
時間は覚えているんですか。


   覚えています。


ほかの人に対しても、このような働きかけがあったかどうか、はっきり見た
ことはありますか。


  私のようなケースをはっきり見たことはないんですが、例えば、クラ
  ブの先輩後輩で今まで親しかった人が、急にあいさつも交わさなくな
  ったという状況を見たりしまして、その片方の方が争議を支援してい


  る方だということが分かるというような、そういう経験がありました。
次に、一九八〇年の組合選挙について伺います。この選挙では、対立した候
補者というものが出て選挙が成り立ったんですか。


    そうです。
どういう対立関係にあったか、グループの特色を言っていただけますか。
   一方は田中さんたちのグループです。もう一方は会社派の立候補者で

    した。

そういう対立グループがあって、その組合選挙について、今まであなたが経
験した選挙と違った点はありましたか。

    はい。

どういう点が違いましたか。

   職場ぐるみで選挙運動を展開するというような、前回の選挙にはなか

   った異常な盛り上がりがありました。

今、職場ぐるみで選挙運動を展開するというお話があったんですが、それは
どちらかの派について行われるんですか。

   はい、会社派の人たちです。

もう一方のほうの選挙運動というのは目立ちましたか。

   いえ、目立ちませんでした。

そういう選挙運動に関して、証人自身が関係したということはありますか。

   はい、あります。


どういうことで関係したんですか。


  会社派の候補者の選挙運動に駆り出されました。
駆り出されたとおっしゃったんですが、だれかに言われて行ったということ
ですね。

    はい。


だれに言われたか、覚えていますか。


  職場の同僚ではありませんでしたので、上司だったと思います。
上司というと、だれでしょうか。


   係長だと思います。


で、どういうことをしたんでしょうか。
  候補者と一緒に、会社の食堂の前に私たち数人が並びまして、それぞ
  れがたすきを掛けたり、プラカードを持ったりして、候補者の選挙運

    動を一緒にしました。

だれの応援をしたか、覚えていますか。

   花田さんという人だったと思います。

あなたは花田さんとは知り合いでしたか。

   いえ、知り合いではありません。

では、何か花田さんを応援したい理由があって応援したんですか。
   いえ、ありません。

それでは、どうして花田さんの選挙運動をしたんですか。

   選挙運動に参加しないと職場の中で孤立してしまうんではないかとい
   うことと、それから、会社に対して抵抗しているというふうに見られ
   るんではないかという恐れからです。

断れなかったので、参加したということですか。

    そうです。

あなた自身でプラカード、たすきを用意したという記憶はありますか。
   いえ、ありません。

どうしたというふうに思いますか。
   準備されたものを持っていったと思います。

だれが準備したか分かりますか。

   分かりません。

その選挙であなたは投票していますか。

    はい。


差し支えなければ、どちらに投票したか教えてもらえますか。
   田中さんのほうに投票しました。

選挙の結果は覚えていますか。

    はい、覚えています。

どういうものでしたか。

   圧倒的な多数で会社派の人たちが勝利しました。

田中さんたちの票の数、覚えていますか。

   大体一〇〇票ぐらいだったんじゃないかと思います。
その票数を見て、何か感じましたか。

   意外に多いので驚きました。

どうして驚いたんですか。

   選挙運動中の状況を見ると、職場ぐるみで会社派の人たちの応援をし
   ていましたので、田中さんに投票する人がこんなにいるなんてとても
   想像できませんでした。

次に、ラジオ体操について伺いますが、会社でラジオ体操が行われるように
なってから、あなたは参加していますか。

   初めのころはしませんでしたが、途中からするようになりました。
初めのころ参加しなかったのは、どうしてですか。

始業前のラジオ体操ということにちょっと抵抗がありましたので、で
   きるだけしないようにしていました。

どういうふうにして、できるだけしないようにしたんですか。

   ぎりぎりぐらいに職場に入るようにしていました。
そのうちに、あなたもラジオ体操を始めたんですか。
    はい。

ラジオ体操を始めた理由は、どうしてですか。

   ラジオ体操をしないと大変目立つんです。それでやはり職場の人たち

   の目も気になりましたし、やはり会社に対して抵抗しているというふ

   うに見られるということがありました。

直接的にもうビラを受け取らないというふうに考えるようになったのは、特

別のきっかけがあったんではないですか。

   最初はビラを受け取っていたんですけれども、だれから言われたとい

  うことでもないんですが、戦場の中でも、ビラを受け取らないほうが
  いいというような空気になっていったんですけれども、そのうち、門
  前の一号館の屋上にテレビカメラが設置されたのを見たんです。それ
  で門前の様子が監視されているんだということが分かりまして、それ
  以降は受け取れなくなりました。


テレビカメラが門前の人たちを映しているというのは、あなたから見て分か
ったんですか。

   はい、分かりました。

人の姿は見えましたか。

   はい、見えました。


あなたは先程、マンドリンクラブに入ろうと思ったというようなお話をして
いますが、マンドリンクラブについて、何か会社との関係で変わったことを
聞いたことがありますか。

   友人の大津さんから聞いたことなんですが、彼女はマンドリンクラブ

   に入部していたんですけれども、彼女の御両親のところに会社の方か

   ら電話がありまして、マンドリンクラブをやめるようにという内容だ

    ったそうです。


次に、田中さんが配転、解雇をされたのは、あなたの退職後なんですけれど

も、退職後あなたはそのことを知りましたね。

    はい。

知って、どういうふうに感じましたか。

    そこまでするのかなという感じです。

そこまでするのかというのは、どういうことでしょうか。

    ひどいことをするなというふうに思いました。

なぜ、ひどいと思ったのかな。

   ・・・・。

   では、なぜ配転があった、解雇があったというふうに考えましたか。
       田中さんが会社に対して抵抗し続けていたからじゃないかと思います。

控訴代理人 (山下)

    あなたは先程、会社に対して抵抗をしていると思われるのがいやだというよ
   うな趣旨の御証言をされていますけれども、会社に対して抵抗していると思
    われると、どうして困るんですか。

        まず職場の中で孤立してしまうということ。

    ほかに何か不利益を受けるというような話を聞いたことがありますか。

        いえ、特に・・・。

被控訴代理人

   選挙の際に、会社派と田中派と二つに分かれていたと、こういうお話でした

   ね。

         はい。
会社派というのは、会社の部長とか課長とか、そういう人も入っているんで

すか。

   選挙には直接・・・。

それは入っていませんね。


はい。
あなたがさっき言われた、たすきを掛けて応援してほしいと言われたという

のは係長さんですね。

    はい。

名前は何という人かは、覚えていないんですね。

    いえ、田中さんです。

その係長さんというのは田中さんですか。

    はい。

田中さんというのは、組合員の一人なんですね。

    そうです。


係長の田中さんに、大津さんと付き合ってはいけないというようなことを言
われたというんですね。

    はい。


言われて、いろいろ話がありまして、その後でまた呼ばれて何か聞かれまし
たか。一回だけですか。

   一回だけです。


その後も付き合っているかどうかというようなことについて聞かれたことは
ないんですね。

   なかったと思います。


一回だけ、そういうふうに言われただけなんですね。


    はい


ラジオ体操のことなんですが、ラジオ体操を始めるようになってから、みん

ながいっせいにばっとラジオ体操をやをようになったと、そういう状態でし

たか。ぼつぼつぼつぼつラジオ体操をする人が増えていきましたか。

   そうですね。でも、早かったと思います、みんながラジオ体操をする

    ようになったのは。


あなたがさっき言われていたように、自分が体操をしないと、なんとなく自
分だけがしたくないみたいな態度に見えるようになったんですね。

    はい。

それがなんとなく自分は辛いので、自分も体操に参加するようになったと、

そういうことですか。

    はい。

大勢の人がラジオ体操をしていまして、あなたがしていなかったときに、上
司かなんかに呼ばれまして、あなたは体操をしなさいというようなことを言
われたことがありますか。

        いえ、なかったと思います。.

控訴代理人 (中川)


    先程、会社派と田中さんたちというふうな組合役員選挙のグループ分けをし
    ましたが、会社派という言い方をしたのは、どんな根拠からそういうふうに
    したんですか。

       会社で解雇があってから、QC運動とかが盛んになったんですね。そ
       うした盛り上がりの中から出てきたということ、それからこれはうま
       く言えないんですけれども、職場の中でうわさが広がっていましたの
       で、それはみんな自然とというか、ほとんどの人が分かっていたこと
       だと思います。

    今おっしゃったうわさというのは、だれだれは会社の意を受けたような立候
    補者であるというようなことがうわさで社内中に広まっていたということで
    すか

          はい。

桐ケ谷裁判官

     今の組合の選挙の関係で、それぞれの立候補者は、いろんな組合の方針につ

     いて、どういう方針で臨むかというのを明らかにしていたわけですか。逆に

    言うと、今後どういうふうに組合運営をしていくとか、どういう方向で進み

     たいと、そういう主張の内容では、いわゆる会社派とそれに対立するような

     違いはあったんですか。あるいは、そういうふうに組合員の方々は受け取っ

     ていたんですか。

              ・・・・・。

     その辺は、はっきり記憶ないですか。

         ええ。

     会社派と言われるのは花田さんですか。

          はい。

この方のほうは、会社の人員整理とか、あるいは今後の会社の運営に協力し
ていくとか、そういうような方針を特に打ち出していたわけではないんです
ね。

   その記憶はちょっとないんです。

投票自体は、いわゆる無記名投票でされたわけでしょう。

    はい、そうです。

あなたも、自分がした運動と投票の結果は逆だったというような趣旨の発言

をされていますね。

    はい。

結論的には、花田さんのほうがかなりの支持を受けて当選されたということ

でしたね。

    はい。

逆に言うと、本来田中さんのほうに協調したいと思っている方があれば、無

記名ですから、それなりの投票結果に表れると。あなたとしては、選挙運動

の内容から見ると、一〇〇票ぐらいでも意外に多いと、こういう実感があっ

たということですか。

    そうです。

ただ結果から見ると、会社派とあなたが思われる花田さんのほうが、数とし
                                                                      
ては圧倒的に組合員に支持されたと、こういう結果で間違いないということ

ですか。

     はい。


東京高等裁判所第一四民事部                                                                                                 、

                                                \
裁 判 所 速 記 宮   津 田 千 鶴