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ハンギョレ21 2006年11月14日

『ハンギョレ21』06年11月14日号

イッシュウ追跡
あなたも「売国奴教師」と呼ばれたの

韓・日両国で国旗敬礼を拒否し懲戒を受けたイヨンシク・根津公子教師の出会い‥
教え子の応援を見て先生は言葉ではなく実践で教えなければならないと分かった

<大きい写真の中にある人物紹介>根津公子権力者はクローバル化などしてちゃんと手をつなぐのに,私たちがそうしなかったら勝算はないですね。日本と韓国でお互いの確信と激励が大きな連帯の力になるでしょう。イヨンソク 韓・日間に異なる点があるとすれば歴史過程でしょうね。独立運動の象徴であった大極旗が独裁政権下では全体主義の象徴になったんです。こんな社会で形成された既得権を維持するために国家主義が活用されます。

1994年職員会議の結果と学生らの反対を無視し「日の丸」(日章旗)を掲揚しようとした校長に抗して「日の丸」を引きずり降ろし,後で訓告・減給・停職1か月・3か月等8回の処分を受けた日本の「懲戒だらけ」教師根津公子(57)。今年8月キョンギ道教育庁から国旗に対する敬礼を拒否したという理由で停職3か月という処分を受けた韓国のブチョン サンドン高の教師イヨンソク(37)。韓・日両国の「懲戒教師」二人の「理由ある出会い」が去る10月28日東京で実現した。国旗・国歌強制に反対する韓・日教師の話し合いを整理する。 編集者

東京=文・写真ファンジャヘ専門委員jahyeh@hanmail.net

根津公子がイヨンシク教師に取り出して見せてくれたプラカードにはこのように書かれていた。「どう考えますか?私たちの先生が君が代を斉唱しなかったと1か月停職処分を受けました。これでは戦争の時と変わりがありません。'憲法9条を守れ!!'これが私が石原都知事にしてもらいたい,ただひとつのことです」(立川第2中学校3年)

"悪が一番好きなのは善の沈黙"

根津公子 (以下根津)は昨年,中3女学生が自分の自転車の前のプラカードの横に一緒において下さいと渡したのよ。私が懲戒を受けたのと知って校長室に抗議しにいった子なの。「先生から誤ったことに対しては行動に立ち上がらなければならないということを教わりました」といったその子が、今度の卒業式の時にはどうかそのまま起立してくださいと頼んだの。こんなことを教えてくれる人が学校から「切られる」のが嫌だというのよ。「だまっていれば首をきられないけど、私が解雇されてもあなたのように、ちゃんと分かってくれる生徒がいるだけで充分よ」と言ったの。卒業式の時この生徒も悩んでいたけど君が代(国歌)を歌わなかったの。

イヨンソク それを作りながら、生徒はどんな気持ちだったんだろう。先生のところに持っていこうと「平和」という部分に丸を書いた学生の心が伝わるみたいですね。

根津 最近その子のお母さんが訪ねてきて、「もし先生がおられなかったら子供は学校を辞めていた」と言うのよ。「先生のような方が反対する「日の丸・君が代」強制なら、きっと問題があるはず」だとはげましてくれた。「日の丸」の意味を学生と保護者が教師の実践から教わったと言ったのよ

イヨンソク ぼくの場合、懲戒を受けたことを知った卒業生がインターネットで署名を集めて嘆願書を作ったのですが、カフェ名が「善の沈黙」となっていたのには驚きましたよ。授業中に「悪が一番好きなのは善の沈黙だ」と問題を提起しなければ良くなることは何もないんだよと、しょっちゅう話していたので、私を救おうと開設したカフェ名を見て、僕がどんなに感動したか。そんなに目に付く子供じゃなかったんですが、「僕は何をしなければならなくて、何ができるんだろうか」と悩んでいる言葉を聞いて、やっぱり教師は「言葉」で教えるのじゃなくて実践と行動、自分の生き様で教えるものなんだと今更ながら実感したんです。

韓・日教育政策、時間差があるだけ

根津 全く同感よ。生徒は父母から「あの先生は教育委に反抗する人」だと聞いて、父母は私に偏向した教育をしないでくれといったのよ。校門の前で一人示威をやるとき子供たちが挨拶をしたり、理由を聞きに来ると私が答えたんですよ。そうするとみんな「それって民主主義じゃないよねー」と言うのよ。そうして、日がたつごとに態度が変わったの。後では挨拶した子供がいじめにあったこともあったのよ。新しい学校の全校朝会で挨拶をするとき、何人かの子供が揶揄したんですよ。父母や地域住民の影響なんだけれど、全100人なら100の考えがあるかもしれないと思うわ。「皆さん変な人が来たと思うかもしらないけど、疑問があったら私に聞いてください。お互いに話をしてぶつかりあうのが成長させます。」と言って降りてきたんですよ。私が授業をすると教師一人でいいのに二人を立てて監視するのよ。本当に韓国では教師を売国奴だと叱り飛ばすという事があるの?

イヨンソク 「学校を愛する学父母の会」(以下、学サモ)というものがあるんです。私はたわむれに「学校長を愛する会」じゃないかと言います。私を教育庁に告発した父母たちは学サモではなかったのですが、<朝鮮日報>に載ったので、学サモがつっかかり私を赤だと攻撃して、懲戒を受ける過程中ずっと解職を要求しました。「良心の自由を懲戒するな、憲法をせよ」と示威する私の横で学サモ会員になった保護者たちが「イヨンソク教師を退職させよう」と示威をしたんですよ。

根津 5年前のことでしょう。なぜ知っているの?大きなスピーカーを付けて「日の丸」がひらめく右翼の大型黒の車70台程が一辺に押し寄せてきたのよ。「根津公子、教師をやめよ」とスピーカーで町内が逃げ出すほどに大声をあげて通り過ぎたんです。こんなに攻撃を受けても、自分を裏切るよりましよ。韓国も日本も「反国家主義」と教師に対する攻撃がこれほどに強いので、韓国の方が不当な「日の丸・君が代」強制を日本の右傾化だと非難しながら、実際イヨンソク先生を3か月停職処分にしたのは二律背反的です。教員評価制と共に、まったく「セット」で攻撃しているみたいです。

イヨンソク 韓・日教育政策の差異があるなら、ただ、時間差でしょうね。これは明確に教師たちが認識しなければだめです。日本が生き残るために愛国心でかたまらなければならない、と経済団体連合会(経団連)会長が言ったでしょう。「格差」を当然視して、言うとおりに従う人間だけいればいいと言うんでしょう。戦争のために自衛隊を海外派遣して、戦争ができる人間、無条件に従う人間を確実に育てようというんです。1989年「学習指導要領」に「『日の丸』を掲揚し、『君が代』を歌うようにする」と明示した時、遠からず教師たちが懲戒されたり解雇される時がくると思いました。それがまさに現実になったんです。

国家主義、子供が判断するようにしなければ

イヨンソク 国家主義の本質について子供たちにも確実な情報が提供されなければならないと考えますよ。

根津 そうね。国家主義の本質が現われないようにするのが国家主義が狙うことだから。教育委員会に知っていながら這いつくばる学校長や教師を作れば、子供たちをそういうふうに作るのは簡単ですからね。

イヨンソク 韓国が日本と異なる点があるとすれば、歴史過程でしょう。日帝からの解放、独立運動の象徴であった大極旗が独裁政権下では国家に忠誠を要求する全体主義の象徴になったんですよ。こんな社会で形成された既得権、支配階層を維持するために国家主義が活用されるんですよ。だから国旗に敬礼し忠誠をかためる盟誓文をすらすら暗記することに教師が問題意識を持たなければならないことは当然だと思います。

根津 そうでしょうね。韓国社会でおこる情勢をあるがままに知らせて、子供が自ら判断するようにすること、日本でも子供に「日の丸・君が代」が戦争の象徴であった歴史と国家主義・愛国主義の弊害に対する情報を与えて、子供たちが自ら判断するようにするのが重要なのよね。
イヨンソク 同じことで、教師も教室で、学校でどんな実践をしなければならないかが、考え抜くべき問題にならなければなりません。このような意味で日本の先生と肩を組みたいです。

根津 権力者はグローバル化などしてちゃんと手を結ぶのに、私たちがそうしなかったら勝算がないですね。日本と韓国で互いに確信と激励が大きな連帯の力になるでしょう。

<写真の説明>イヨンソク教師(右側)と根津公子教師は10月29日夜更けまで対話を続けた。二人の教師は韓日教師の「反国家主義」連帯が必要だと異口同音に話した。