第5回石川中裁判は、2002年1月24日(木)午前11時から東京地方裁判所・八王子支部401号法廷で開かれました。
この日、原告の根津さん側は、かねてから快諾を得ていた琉球大学教育学部・高嶋伸欣教授に意見書(論文で専門的・学術的見解を証言すること)を提出していただきました。
裁判所の姿勢は、早く終えようとするいいかげんさが消え、提出される意見書も丁寧に検討しようとする姿に変わってきました。そのような時に高嶋先生のおよそ4800字におよぶ長文の意見書の存在は大きいです。
上から命令される「日の丸・君が代」を何がなんでも忠実に押し付けようとする校長の姿は、まさにオウム真理教そのものと、私もあの頃切実に思ったものでした。それが処分の対象になったと聞いたときは、何ともやりきれなさで一杯でした。でも私のやりきれない思いは当然なんだ。高嶋先生の意見書には、被告・八王子市教育委員会の不当な論理が教育学の観点から3点に分けて指摘され、胸のすく思いがしました。
第1 点目、「学習指導要領に逸脱していると被告側がいうが、文部科学省は、学習指導要領は最低基準と明示している。故に、さらに高度な内容を指導しても逸脱しているとはいえない」と、先生は、被告側の論法の不当性を鋭く指摘してくださいました。
第2 点目、「 学習指導要領の上位の(学校教育法36条)には(公正な判断力を養う)と記載されているから、「日の丸・君が代」において(尊重する態度)しか認めない学習指導要領の見解は間違っている」と、先生は指摘してくださり、私の考えは間違っていないと嬉しく思いました。そして、先生が筑波大学付属高校教諭時代、生徒達に指導された活発な討論をあげ、「成績評価権をもつ教師が最初から一定の考えのみを正しいと指導したら生徒は、教師の考えに固定されてしまう。多様な価値基準が存在し、多面的な意見や感想を比較検討する作業をとおして判断力は養われていく。」といわれます。私は「指示待ち人間にならないで」とよく子ども達に言ったものです。
それでいて「これをしなさい。あれはしてはいけない。」とこと細かに指示して、反省の繰り返しでしたが、指導の仕方によってはこんなに「公正な判断力」が高まるものかと参考になりました。
又「文部科学省は新聞等に報道された事実は、教科書に記載出来るという。故に広く報道された、根津教諭の『考えましょう。』という教育が処分になったことは、教科書に記述しても良いといえる。司法の審判だけではなく、教科書にのせて正義感の強い中学生の審判を受けさせたい。」との主張に教科書の深い存在価値に目が開かれる思いがしました。
第3 点目、「検定制度に合格している大阪書籍版の小学校6年生の教科書では、沖縄本島で米兵が少女に暴行した事件を含む沖縄基地問題、原子力発電所の是非、自衛隊の海外派兵は合憲か違憲か等をあげ、小学生の思考力を高めている。中学校は、小学校教育の基礎の上にたっていると学校教育法は明記しているのだから、中学校卒業時に『考えましょう』と指導する根津教諭への処分は不当といえる。」との先生の主張に被告側はどう解答できるのでしょうか。尚、先生の意見書はお分けるすることが出来ます。ご希望の方は事務局までお申し出下さい。
裁判番号==平成13年(ワ)題443号 裁判名==損害賠償請求事件
裁判官 廣田民生氏・鈴木秀行氏・山田直之氏
第1回 2001年4月12日 傍聴者60名
原告・根津さん側弁護人 和久田修氏・萱野一樹氏
原告・根津さん訴状提出 及び、第1回本人意見陳述(ほうせんかNO2参照)
訴状の主な内容
1999年8月30日、八王子市教育委員会が、根津さんに出した訓告処分は不当である。
教師の授業内容自体を捉えて処分することは、教育行政の違法な支配・介入である。
憲法10条・個人の尊厳、憲法21条・表現の自由、憲法23条・学問の自由、憲法26条・教育を受ける権利・教育の義務、及び、教育基本法1条・教育の目的、教育基本法10条・教育行政、違反に当たる。
被告・八王子市代表者 黒須隆一氏 被告弁護人・ 木下健治氏
第2回 2001年5月31日 傍聴者58名
被告・八王子市側の主張(訴状に答えたもの)
@、訓告処分は処分ではない。
A、事実関係の中で、『秋山校長は原告に対し、(19日=すでに授業が終わっていた日)「……このような授業は止めてくれ」と指示した……』と主張する。
B、原告の使用したプリントは、中学校学習指導要領から逸脱している。
第3回 2001年8月23日 傍聴者47名
原告・根津さん側の主張
@ 新潟大学法学部・成島隆教授に意見書を提出して頂く。(2001/8/1)甲第10号証
意見書の趣旨は『日本国憲法、及び準憲法としての性格を持つ教育基本法の趣旨からすると、平和で自由で民主的な社会が成立するためには教育の力が重要であり、そのためには、教師の教育活動の自由が必要である。校長が教員の具体的教育活動に対して職務命令を発することは、憲法、教育基本法、学校教育法に照らし違法である。学習指導要領とは、教育基本法→学校教育法→学校教育法施行規則という「法令規制の連鎖」によって文部科学大臣によって出される告示である。学習指導要領には法的拘束力はなく、その内容自体も「教育課程の枠外にあたる大綱的」なものでなければならぬ。根津さんの授業は現行の指導要領の「大綱的基準」の範囲内にあることは明白であり、処分は違法である』
A第2回の公判で八王子市側が主張した『事実関係』つまり『校長の嘘の部分について』………このことに絞って根津さんは、第2回目の意見陳述(ほうせんかNO3参照)
被告・八王子市側の反論
紙面にして数枚程度の準備書面で、なんら論説的なものではない。「本件プリントに基づく指導は、学習指導要領に逸脱……」と主張。
第4回 2001年11月8日 傍聴者35名 警備法廷
被告・八王子市側の主張のあらまし
@、「学習指導要領は法的拘束力があり、指導要領を受けた中学校指導書によると、愛国心を育てるために国旗・国歌を尊重する態度を育てると書いてあるのだから(日の丸・君が代)は学校で教え強制してよい。学習指導要領に基づく国旗・国歌の指導は、憲法第13条、第19条、第26条、並びに、教育基本法第1条、第10条に基づいて、人格の完成を目指し、平和的な国家および社会の形成者としての国民を育成することを目的として行っているものである。原告の授業は、これらの目的からみると、適切でない」と主張。証拠として、学習指導要領と、国旗・国歌の指導について書いてある文部省発行の新聞の写しを提出。
A、また、被告・八王子市側は、事実関係で『うそ』をついていたことを認めた。……『訂正する』というかたちで……。
これにより裁判は『事実関係の争い』は無くなり、単なる損害賠償請求事件ではなく、『憲法の表現の自由・学問の自由を問い、教育基本法の基本精神を問う』裁判であることがはっきりしてきました。裁判所が、正義に基づいた裁判をするかどうか、注目してください。
第5回 2002年1月24日 傍聴者40名 警備法廷
原告側 高嶋伸欣教授の意見書提出
意見書からの抜粋
……このことは、少なくとも高校段階では1990年代から、教科書が主たる教材ではあってもそれ以前の絶対的なものから相対的なものに、性格を転換することが、文部省自身によっても容認されていただけでなく、2000年代の新教育課程は高校だけでなく、小・中学校も同時に考えることを中心とした学習、思考力育成を重視する学習へ転換をめざすものであることを、文部科学省は明確に提示してきている。条件が整い次第に、ここで例示したような記述が中学校高学年向けの教科書に登場することになるのは当然の成りゆきでもある。
この点でも、根津教諭が3年生の最後の授業で「考えましょう、と生徒に呼びかけ」たのは、社会情況の変化に対応した学校教育の新しい役割を的確に読み取った上での、創意工夫の妙を発揮したきわめて適切な授業展開であったと評価される。その一方で、前述の和田参事の場合は、こうした社会の時代の変化にほとんど対応できないまま旧態依然の認識をもって根津教諭への公権力の行使に主導的役割を果たしたとすれば、その責任は重大である。この点で見る限り、同参事が現場教師に対する指導的立場にあることに関して、その資質と能力などの適格性についても疑問が生じざるを得ない。
(以上 文責編集部)
皆さんは、朝日新聞の「ひととき」欄を御存知でしょうか? 戦後間もない時期に新設された、"女性専用"の投書コーナーです。1955年、ここへの投稿がきっかけとなって誕生した「草の実会」は、『戦争は絶対反対』という柱のもと、一人一人が自主的に集まってできました。女性への不当な差別の歴史を背負い、戦争下での犠牲をも強いられた女たちは、噴き出る思いを持ち寄って、それぞれの持つ知性や感性を互いに放電し蓄電し合いながら、平等で平和な社会を目指して活動をはじめました。1本の指揮棒に従って動きがちな集団の多い中、会長も役員もいないこの会の行動は常に会員の意思が起点であり、必要があれば何回でも話し合うことで厳しい時代を乗り越えてきました。
子どもの手を引いて会合に参加する母親がたくさんいたそうです。その子どものひとりが、あの『非戦』を出版された坂本龍一さんです。今の彼に多くの影響を与えた母親が草の実の会員であることを我が子に伝えましたら、「草の実って、すごいね!」。(どういう意味で、すごいのでしょう?)ともあれ、素直にうれしいことです。
60年安保闘争はもちろんのこと、日本がおかしな方向に傾く危険を感じた時は必ず、草の実会は行動を起こしました。それは今も続いています。
今、多くの会員は老齢期に入り、それぞれに故障を抱えながらも世情が引退を許しません。若い人たちにたくさんの事を伝えていかなくてはならない生き証人なのです。中心となって活動しているのは70〜80代の方々なので、飛び回ることは難しくなっていますが、まだまだ精神力が旺盛。なにより平和の大切さと歴史の真実をからだと心で知っている、貴重な人材の宝庫と言えるでしょう。
私は2000年の夏、毎年8月15日に行われる「草の実会8.15反戦デモ」に初めて参加して、彼女たちのものすごさに圧倒され、会員になりました。俗に言う活動家の"業界用語"はビラにも横断幕にもプラカードにもありませんし、大声で叫ぶこともなく、静々とゆっくり歩くのです。先頭には、スピーカー車が1台ゆっくりと、周りの人々に語りかけるように呼びかけながら進みます。なにしろ平均年齢が70代ですから、ジグザグなどやるわけありませんけど、ひとりひとりが危機感を持って歩いている姿は、迫力がありました。昔は5月3日にもやっていたそうです。
もうひとつすごいのが、機関誌の発行です。68〜80ページの内容はすべて会員の寄稿によるもので、編集、校正、割りつけにいたるまで、会員が当番制でこなしているのです。発足以来月1回の発行を続け、今は手が足りないので2ヶ月に1回に減らして、充実した内容になっています。最新号は、462号です。新会員のわたしにも寄稿しなさいと勧めてくださったので、根津公子教諭のおかれている状況を書き始めました。300名余りの会員(誌友)が読んでくださるので、反応もすぐに現れて「石川中裁判を支える会」の会員になってくれる方も出始め、「文化人アピール」にも賛同団体になることが了承されました。『今、中学校では・・・』という連載なので、根津公子教諭の事だけではなく、息子の通う中学校の話や元中学校教師の座談会など、近頃の中学校事情を書かせてもらっています。身近に中学校生がいない会員の方々に好評で、今6回目を執筆中です(まるで作家気分)。これからも裁判の進捗状況や、多摩市教委、都教委の有様、中学、高校の卒業式入学式ルポなど、書いていく予定です。これがわたしに出来る根津公子教諭支援行動です。
もし、購読を希望してくださる時は連絡ください。会員になれば寄稿もできます。また、戦争をくぐりぬけてきたおばあちゃんたちの貴重な話を聞きたい方は、どしどし問い合わせてください。
連絡先:八王子市東中野543−2 舛田妙子 TEL:0426−75−0908
石川中裁判を支える会・2002年度年会費納入のお願い日頃、「石川中裁判を支える」にご支援をいただきありがとうございます。4月になり会計年度が新しくなりました。昨年春に会員の手続きをされた方は、本年度文の会費2000円をお振込みくださいますようお願い申し上げます。振込先 石川中裁判を支える会 00150-7-15453
もしも、25年間、権力が人びとの頭上に降らせていたのがミサイルではなく書物であったなら、……もしも、人びとの足もとに埋められたのが地雷ではなく小麦の種であったなら、数百万のアフガン人が死と難民への道を辿らずにすんだでしょう。(モフセン・マフマルバフ著・アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ・現代企画室より)★「八○年代の教科書問題」 高嶋伸欣 新日本出版 ★「教科書はこう書き直された」 高嶋伸欣 講談社★「写真記録・東南アジア第5巻・マレーシア、シンガポール」 高嶋伸欣 ほるぷ出版 ★「教育勅語と学校教育」 高嶋伸欣 岩波書店★「福沢諭吉のアジア認識」 安川寿之輔 高文研 ……高嶋教科書訴訟でポイントになっている福沢諭吉の「脱アジア論」とは……
★「お眠り私の魂」 朔立木 光文社
……フィクションにしてはあまりにもリアルな権力に汚染された裁判官の実態……
★「裁判官を信じるな!」柳原三佳・松永憲生・寺島和史 宝島社
……読みやすい文庫本……だけど、本当なのと思っちゃうョ……