市野 宗彦 さんから根津さんに贈られた詩 そのとき君は

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そのとき
そのとき
君は思い起こすだろう

力あるもののあまりの理不尽に
怒りがおさえきれなくなったとき

自分の心の奥底を
素手でわしづかみにされ
屈辱に身をこがすような思いをしたとき

周囲の冷たい目に脅え
絶望の縁に立たされた朝

強いものにすりより
不正義を見過ごすことが
どれほど自分をおとしめるか
ゆっくりと気づき始めた夜

五年後か
一〇年後か
あるいは二〇年後か

そのとき
君は思い起こすだろう
遠い日に出会った一人の人を

命令、処分
脅し、冷笑
非難、無視
山のように降ってくる
それらのものに
めげず、脅えず
「教員である私は
どんなに処分をされようと
教育を否定し破壊する ことには加担しない」
と言い続け、
門の外に立ち続けた人を
この世の最も強い力と
穏やかにほほえみながら
向き合い続けた人のことを

遠い海で生まれた小さな波のうねりが
やがて岸辺に打ち寄せる波となるように
はるか山の空で生まれた風が
谷を越え
いつか人の髪をなびかせるように

名もないただひとつの波のように
名もないただひとつの風のように
その人の願いが
いつか君の胸に届くだろう

根津公子先生
その人の名が君の胸によみがえるだろう

三〇年後か
四〇年後か
でも、きっとその時が来る



市野 宗彦