亀子新聞

2002年2月22日号

2.21都教委事情聴取報告

(1) 報告

(2) 「抗議と要請」

(1)報告

 2月21日13時都庁第2庁舎1階ロビーに支援者23名が集合。今回事情聴取が行われる都庁人事部に向かった。28階エレベーターのドアが開いて、目に飛び込んできたものは、30名近い都教委職員、警備員による物々しい人間バリケートだ。人事部前の廊下を通常の通行が出来ないように並び立ち、他の来訪者の出入りも支障をきたすような人員配置をしていた。都教委職員は全員名札をはずし、都教委と書かれた腕章をつけ、警備員にのみ名札を付けさせていた。先に上がった根津さんがどこにいるのかも、支援者はこのバリケードに遮断され一切分からない。なぜこんなことが必要なのかと支援者が抗議すると、「都民の方がいらして事故など起きるとこまるので」とバリケード前方に並んでいた浦部職員課課長補佐が返答、「根津さんがどの部屋で事情聴取を受けているのか」の質問には「根津さんに関して話す必要はない」と返答し、こうした異様な状況に対しきちんとした説明をしてほしい、或いは説明できる責任者を呼んで欲しいという支援者の声を一切無視し続けた。支援者は「抗議と要望」書を浦部課長補佐に手渡そうとしたが拒否され、その場で読み上げ、更に上部に渡して欲しい旨を伝えて国正職員課服務係長に手渡した。

13時50分人間バリケードの向こう側、事情聴取が行われていたと思われる部屋から根津さん、萱野弁護士が退出し、都教委が代理人を拒否し事情聴取を実施しなかったことが報告された。(以下やりとりの一部、根津さん談)

根津さん)弁護士同伴のもとで事情聴取を受けたい。それがだめな理由を示して欲しい。

都教委)そういうのは都教委の都合、方針だ。

根津さん)内規を示して欲しい。

都教委) ここは検証する場ではない。

根津さん)検証してから望んで欲しい。理由を示して欲しい。

都教委)今はできない。後で。

都教委)2時になったが、事情聴取を拒否するのか?

根津さん)体制を整えて欲しい。菅野弁護士は10分で来れるようスタンバイする。

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 根津さんがなぜ代理人が拒否されるのか、今後の事情聴取がどうなるのか等の説明を求めに人事部に入ろうとしたが、都教委職員がドアの前に立ちはだかり、根津さんの腕をつかみ入室を妨害し、さらに多数の都教委職員が包囲して動かない。時間と共に根津さんを囲む人間バリケードの数が増えていった。支援者も根津さんの身の危険すら感じる状況に抗議を言い続けた。根津さんは包囲網の中でただ一人、自分を無言で囲み続ける都教委職員に対し、今回の事情聴取の経過を説明し、「上からの指示を鵜呑みにせず、自分で考え行動することが大切であり、それでもなお自分たちのやっていることが正しいと判断するなら、私と議論をして欲しい、いつでも待っている」と訴えた。支援者も「組織の中でだれかがおかしいと言えば、薬害エイズ事件も雪印事件も防げたのだ。同じ過ちを教育でくりかえすのか!」と抗議した。

 膠着状態が続く中、事情聴取終了予定の16時が過ぎ、勤務時間に関する確認の電話を根津さんが包囲網の中から多摩中にかけた。事情聴取の立ち会いをし、都教委を14時に退出したはずの前島校長がまだ学校に戻っておらず、所在不明で結局同僚にメモをお願いした。

 17時10分 新井人事部職員課長が人間バリケードのむこうから現れ、「事情聴取が実施出来なかったのでお帰りください」とだけ告げ、根津さんの「今後の事情聴取はどうなるのか?」等の質問には答えず、支援者の質問も振り切って早々に立ち去ってしまった。

支援者は「市民が法的な手続きとして弁護士をつけるのは当たり前のことだ。都教委は生徒に人権を教えなさい、と言っておきながらやることがおかしい。デッチあげに上乗せした事情聴取を今回都教委が強行しようとしているのは重大問題、民主主義を否定するものだ。今回根津さんが事情聴取を拒否したのではない、ということをしっかり押さえて欲しい」等、都教委職員に申しおきをした。    

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☆ 28階のエレベーターのドアが開いたとき、一瞬「プライベートライアン」の映画の冒頭場面を思い出した。戦争のにおい。この報告を読まれて皆さんはどう思われるのでしょうか?根津さんに対する教育行政のすさまじい攻撃。これが日本の教育の現状です。(亀子)

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東京都教育委員会御中

抗議と要請

 本日(2002年2月21日)東京都教育委員会にて、多摩市立多摩中学校根津公子教諭に対して、服務事故に関する事情聴取が行われると聞いております。わたしたちは、昨年の5月以来根津教諭に対して加えられてきた多摩市教育委員会によるさまざまな攻撃が、根津教諭の教育実践に対して政治的に圧力を加えるという目的に基づいているのではないか、という疑いを抱いて、根津教諭を支援してきた市民です。2月8日に始まり本日の事情聴取の強行に至る一連の流れは、わたしたちの上の疑念を確信に至らせるのに十分なものであり、法を恣意的に運用することによって一人の教員を排除しようとする、極めて違法性の高いものだと思われます。

まず、簡単にこれまでの経緯を追いたいと思います。従軍慰安婦に関する授業が問題とされた5月の事情聴取は教員の授業内容を問題にするものであり、憲法と教育基本法に照らして非常に問題のあるものでした。その攻撃が一段落した9月に出された「指導力不足等教員」の認定は、東京都教育委員会において継続中ですが、申請から5ヶ月を経過しようとする現在になっても未だに判定が出されないこと自体、「指導力」という観点からみて、多摩市教委の最初の認定がいかに理由のないものであったか、ということを物語るものです。このような状況において、2月8日にはじまった今回の「服務事故」は、今年度に入って実に三度目の根津教員に対する攻撃なのです。同一の教員に対して、全く異なる理由で三度も問題にされることは、通常では考えられないことであり、この一年の根津教諭にかけられた「嫌疑」が、特定の政治的な圧力による行政権の恣意的な行使以外にありえないことを、はっきりと示しています。

行政権が法を濫用し、人の権利を侵害するときには、大概において手続きはずさんなものになります。そして、今回の手続きはこれまでにもまして、法の理念を無視して強行されました。以下に問題点を指摘させていただきます。東京都教育委員会は、行政の説明責任を全うするために、以下の都民の疑問に誠実にお答えくださるよう、お願い申し上げます。

1. 問題とされている指導案と協議会は、現在進行している「指導力不足等教員」の認定のための授業観察において根津教諭に求められたものです。前島校長と貴委員会は、この授業観察に基づいて改善命令を出し、最終的に「指導力不足等教員」として東京都に申請しました。したがって、同校長と貴委員会は、この件に関していったん判断をしてしまっているはずです。理由に基づいて2度、処分をすることができないというのは、法の一般原則であり、校長の行為はその原則に反するものです。

2.「指導力不足等教員」の認定に際して行われる指導案の作成と協議会への出席は、「指導力不足等」と判断される可能性のある教員が自らの「指導力」を証明するための手続きだと考えられます。教員が自らその権利を放棄したとしても、教育行政上、何ら不都合生じないはずです。したがってそれを問題とした今回の申請および、それに基づく事情聴取は、行政権に認められる裁量の範囲を逸脱した不合理かつ違法なものだと考えます。

3.前島校長は、本件指導観察が「指導力不足等教員」の認定のためのものであるということを根津教諭に通告しなかったのであり、理由を明示しない授業観察自体が手続き的に違法であった可能性があります。理由の明示されない授業観察に対して指導案を作成せよという命令は、合理的な理由のない違法なものです。しかも、その当時根津教諭は前島校長から遂行困難な違法な職務命令が乱発されている状況にあり、その件についての回答がない限り職務命令には従うことのできない旨、弁護士の意見を添えて、文書で主張しております。以上の事情からすれは、指導案の未提出および協議会への欠席には正当な理由があり、それを理由に処分をすることはできないと考えられます。

4.本件は2001年の7月および9月に生じたものであり、それからすでに半年が経過しようとする今になって、その行為について上申するのは、時をさかのぼって根津教諭の行為を問題にしようとするものであって、同教諭を排除するために、法が恣意的に運用されていることを如実に示すものであると判断せざるをえません。民主主義社会においては、このような一人の人間をねらい打ちにするための恣意的な行政権の行使は、何らかの不当な政治的な圧力によるもの以外には考えられないと思います。

5.さらに、2月12日に行われた事情聴取では、そのための職務命令がその日の朝に出されました。そもそもある公務員に不利益処分がなされる場合に事情聴取が行われるべきなのは、告知を受け弁明する機会を与えられるという、当該公務員が有する憲法上の権利を保障するためです。この権利は、判断の公正さを担保し、行政権による違法な処分を避けるために市民に保障されるものでありますから、被聴取者には、弁明の準備のために適切な時間的余裕が与えられなければなりません。したがって手続的正義の観点からすれば、事情聴取を、通知が行われる当日に行うことは、特に緊急性が要求される場合を除いて、違法性を免れないと思われます。

6.2月18日に多摩市教委は、組合の正当な権利を主張するために事情聴取の延期を求めた根津教諭の主張を一方的に拒否し、十分な弁明の機会を与えることのないまま、東京都教育委員会に上申しました。この決定は端的に憲法の保障する手続き的デュープロセスを無視するものであり、違法であると考えられます。

7.本日行われる東京都の事情聴取においては、弁護人の同席を認めないと聞いております。しかしながら、不利益処分のための事情聴取において、被聴取者の十分な弁明する権利を保障し公平な判断を下すために、弁護人の同席を許可するというのは民主主義社会においては当たり前のことであり、弁護人の同席を拒否することは、そこで出される結論の公平性を大いに損なうものです。換言すれば、弁護人の同席を認めないという東京都教育委員会の決定は、本日の事情聴取が、法の理念を無視し、根津教諭を教育現場から放逐するという政治的な目的のために行われるということを、教育委員会自らが認めることであると思われます。

 公正な手続きには、市民の基本的権利を保障するという目的だけではなく、結論の公正さと客観性を担保するという重要な機能があります。この観点からすると、上で指摘したような手続きの無視は、この一年の根津教諭に対する手続き全体が、本来の制度の趣旨を超えた違法な性質をもつものであることを、はっきりと示すものであることは、誰の目からみても明らかです。

わたしたちは、このような違法な手続きに基づいて出された「処分」を、「指導力不足等教員」の判定材料にされることを、危惧しています。しかしながら、もしそのようなことが行われるならば、今回の手続きが「捏造」されたものであるということを自ら示すことにほかなりません。その場合にはさらに違法性の問題を増大させるだけだと思われます。

自ら法を逸脱し、政治的な理由に基づいて一人の教員を排除しようとする教育委員会が、法を遵守し、民主主義を担う市民を育成するという重大な職務を果たせるはずはありません。東京都教育委員会が、民主主義社会における教育の理念にのっとった妥当なご判断をされることを、心から期待しております。

2002年2月20日

考え・判断する子どもたちを育てる学校教育を!市民の会     (田中 0426-64-5602)


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