きっかけは「従軍慰安婦」の授業
異動1年目の昨年度の2月、卒業式実行委員会の担当であった私は、それまでの学校で当たり前にしてきたように「どんな卒業式にしたいか」を実行委員会の場で生徒に訊いたところ、
@「根津は日の丸・君が代をやらせないために生徒に訊いたのだ」と虚偽の事実をつくり出して問題だとされ、
Aまた、3年3学期の家庭科で男女共生をテーマに行った「従軍慰安婦」「同性愛者」の授業も問題だとされて、
保護者が校長・市教委へ苦情をあげたということでした。私は「苦情を寄せた保護者の生の声を聞きたい、話し合いたい」と再三、校長に要請しましたが、話し合いは拒絶されました。以後あがる「苦情」や「要望」についても、すべてこのパターンで、当初から「ためにする苦情」がはっきり見て取れました。
ちょうどこの時期、校長は子どもや保護者に家庭科の学習指導要領を見せ、
「男女共生、従軍慰安婦なんて、家庭科の指導要領のどこにも載ってない。根津先生は学習指導要領を逸脱している。家庭科と称して家庭科ではないことをしている」
と説明しています。また、市教育長は、
「ちょうど今、苦情が上がってきている。もっと、苦情が上がれば…。なんとかして現場を外せないかと考えているんだが」
と口外しています。市議会予算委員会では、学区に住む2人の議員が
「教材の選択〜不適切なものを使って」「主義主張を押し付ける〜洗脳する」と発言しています。
突然の事情聴取
4月半ばから市教委は、私に対し、通常処分を前提として行う事情聴取をその理由を示さないままに行いました。
聴取されたことは、
B「従軍慰安婦の授業を家庭科の学習指導要領との関係で説明せよ」
C「『君たちのおじいちゃんは人殺しだ』と授業で言ったのか」
D「年間指導計画について校長から書き直しと再提出を再三命じられたにもかかわらず、応じなかったのではないか」、
という内容でした。
Cのような発言をするはずはなく、Dについても校長から命じられたことはなかったので、虚偽の事実が捏造されていることをここでも実感しました。また、Bを聴取する市教委は、ずっと後になって「男女共生、従軍慰安婦等を家庭科で扱うのは構わない」と言い換えるようになりましたが、この時点では校長と同じく誤った認識を持っていたことが明らかです。
聴取は一度で終わらず、次回に持ち越しになりましたが、市教委は事情聴取の理由を5月に入ってはじめて「市民から一通の手紙が教育長宛寄せられたから」と答えたものの、手紙の内容さえ知らせないなどその手続きに瑕疵があったため、私は事情聴取の公平性を要求してきました。しかし実現されず、事情聴取は中断したままです。
かき立てられた保護者の苦情
6月半ば。教育委員会原田指導室長が「(根津には)教育公務員の適格性に拘わる(問題がある)」と議会答弁したことから見て、私の所属する多摩島嶼教職員組合が都研修センター送りも近いと判断し、事実を知らせるビラを戸別配布しました。
それに対し、保護者から苦情の手紙が寄せられたとして、職員の了解を得ないまま校長は全校緊急保護者会を開き、「3月(=市教委が私の授業を観に来た時に、子どもたちが校長にその理由を訊きに行ったこと)に、保身のために根津は嘘をつき子どもを利用した。今回ビラをまき、再び子どもの心を傷つけた」との校長私見を「学校の見解」として発表しました。校長が歪曲した「事実」について私がそれを訂正しても、保護者の中にすでに校長私見が浸透していて、聴いてもらえる雰囲気ではありませんでした。周到に準備されたと思われる実質、根津糾弾会でした。
その後、現3年生の保護者会が開かれ、私は、「保護者と直接話し合わせてほしい」と出席を申し出ましたが、出席は許されませんでした。そして、校長を介しその保護者会名で、私は「質問・要望」書を渡されました。この要望の中に、「授業内容に関しては指導要領に沿っているのか否か、また内容が家庭科の授業として適切なのかどうかの判断は、素人ではわからない部分もあるので、校長先生や教頭先生は勿論、教育委員会にも授業参観をしていただき、きちんと根津先生を指導してもらいたい。また、どのような内容を取り扱うのか把握していただきたい」「親としては全体保護者会でも要望したように、特に3年3学期の授業に関しては昨年度のような内容は取り扱ってほしくありません。その約束は守ってもらえるのでしょうか。全体保護者会で『考え直す』とおしゃっていたが、(ママ)大丈夫でしょうか。もう1度先生に『やらない』という確認を取らせていただきたい。」とあります。
この要望を見ると、保護者にはまず、昨年度の3年3学期の授業、すなわち、「従軍慰安婦」や「同性愛者」を扱った「男女共生」の授業をしないでほしい、という前提があります。そして、そのことから類推すると、他の授業だって学習指導要領に沿っているか等あやしいので、授業参観を要望する、ということだと思います。校長の「男女共生は〜家庭科ではない」という発言が保護者の間に学年を超えて浸透していることが窺えます。
この「要望」に沿って、次の展開を見ることになります。
「保護者の要求」で始まった授業監視
7月半ばから9月半ば過ぎまで、「保護者の要請があり指導主事による授業参観」(職務命令書)が行われました。市教委、都教委、校長・教頭で、多い時は8人にのぼりました。
そして9月20日、校長室に市教委・都教委がいる中、校長(教頭同伴)は会議中の私のところに来て以下、読み上げました。
「これまで授業観察を行い、その結果を踏まえて9月6日と13日に授業改善を指示しました。また都教委の指導主事の指示を受けるように指示しましたが、あなたはこれを拒否しました。本日の授業で改善が見られませんでした。そのため私は、あなたを指導力不足として申請することにします。以上通告します。」(注:指導力不足として申請する時の要件として本人に通告することが「要綱」に明記されている)
校長が流した嘘とデマによってつくられた「保護者の要求」は、校長の、「指導力不足」の申請に利用され、任を終えました。
舞台は都教委へ
9月28日正式に書類を受理した都教委は、市民や組合からの突き上げがあったからか、要綱にはない「弁明の機会」(途中からは「意見を聴取する会」に名称変更?)を設けました。
私は都教委が指定した10月2日、10月4日に出向きましたが、都教委側の不手際で延期され、10月22日、11月4日に弁明をしました。代理人である弁護士を同伴できたことは幸いでした。
22日には、校長から申請があったという、「授業の進め方が悪い」「保護者・生徒からの苦情」について私は事実を述べました。しかし、この日、聴取される内容が変わりました。「職務命令に従わなかったのはなぜか」「授業で指導した『農産物と農薬』と家庭科の学習指導要領との関係」が新たに訊かれ、校長が申請理由とした「保護者の苦情」は問題から外され、また、「授業の進め方が悪い」も確かめると返事をずらしましたが、問題から外したような印象を受けました。では一体、何が「指導力不足」の要因だと言うのでしょうか。
「指導力不足」として申請したのは授業観察の結果によるものであり、その授業観察は「保護者からの苦情」によって実施されました。「保護者からの苦情」を問題にしないとするなら、「指導力不足」として申請する理由は消滅してしまうはずです。
「指導力不足」の認定さえ終了すれば教育委員会・校長にとって「理由が消滅したって、いい」ということなのでしょう。皆さん、「判定会を開くな」「指導力不足等教員と認定するな」の声を至急あげてください。
要請・抗議先 東京都教育庁 教育長 横山洋吉
人事部長 中村正彦
FAX 03-5388-1725